投函者(三井千絵)

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たたけるドアはどこ?

資産運用立国実現プランのもと、アセットオーナー・プリンシプルと日本版EMPが導入され、新興運用会社の活躍が期待されます。しかし新興運用会社が確実に成長するためには、よりよい新興運用会社プログラム(EMP)が必要です。この連載では海外のEMPを少しづつ紹介していきたいと思います。

 

様々なEMPの理解

同シリーズでは海外のEMPの取り組みを紹介してきたが、今回は少し日本の状況も確認していきたい。新興運用会社(EM)、EMPともに、グローバルに何か決まった定義があるわけではない。これらが活性化することで市場全体が得られるメリットも、各国の状況に応じて異なるだろう。

2024年6月21日、金融庁はそのHPで金融機関各社が発表したEMPに関する取り組みの一覧を公表した。もともとは金融庁が要請したもので5月17日現在、国内22の”アセットオーナー”と言われる機能をもつ団体で、かつ金融庁の監督下にある銀行、生損保などによる取り組みだ。これをみるとそれぞれの受け止め方はさまざまで、今後一定の資金をEMと呼ばれる運用者に割り当てる、というものから、もう少し踏み込んでEMと呼ばれる運用者もまじえて共同運用のビークルを立ち上げる、或いはファンズ・オブ・ファンズを立ち上げるというもの、また海外で活躍するEM(または独立系)ファンドの買収・出資といった取り組みなどが見られた。

またゲートキーパー機能の提供や、ファンド評価の分野で取り組むという国内EMを支援することに注目した記載もある。ただしいずれも、対象となるアセットクラスとしては、現時点でも新興/独立系が活躍しているPEや不動産がよく目についた。

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(金融庁HP https://www.fsa.go.jp/policy/pjlamc/emp/japanese_emp.html より)

 

EMPは健全な競争環境の確保

金融庁のHPでまとめられたのは5月17日提出分だが、2024年の6月10日、野村グループは自社のHPにEMPの取り組みについて発表した。

ここでは金融庁のサイトでは見られなかった、EMPに取り組む目的が記載されている。(金融庁では一覧にするために割愛したのかもしれない)そこには、「新規参入の促進により資産運用ビジネスの健全な競争環境を確保することを目的とした」EMPに取り組む、となっている。あまり海外のEMPで見かけない表現だ。日本の現状に基づいた独特の目的といえるかもしれない。

そして続けて、これに取り組む理由として再生エネルギーや農業、AIといった新たなテーマに対応していくために、既存の運用会社だけではなく新たなパートナーと協業していく必要があることをあげている。またグループの信託銀行においてEMが設定する公募投信の取り組みについて触れ、このようなEMに対しミドルやバックフィスのサポートをする検討があることに触れている。

最後に、グループのファンドリサーチ・年金コンサル会社におけるEM分野へのサービス拡充についても取り組むことが触れられている。

 

国内に多くのEMが誕生するには

2024年12月、野村アセットマネジメントはそのHPに、EMに向けた問い合わせフォームを公開した。必ずしもマネージャーとして採用が期待される”エントリーシステム”ではないようで、”当社に関心のある方は連絡をしてほしい”というものだ。EMから連絡があったら、相手にあわせて何か協業ができないか探る・・・というように読み取れる。

米国の公的年金や大学基金のEMPの良い点は「エントリー制度」だと筆者は感じている。誰もが、もしかしたらチャンスが得られるかもしれない、という希望となり、アントレプレナーシップを醸造する。しかしこれが機能するのは、すでに他の既存の運用会社のように十分な数のEMがいる場合だろう。過去に紹介したようにニューヨーク市退職年金制度では、1000を超えるプログラムの条件にあうマネージャーが登録している。したがってEMPではその中から、優れたその時々の条件に合うマネージャーを選ぶことができる。現在の日本市場では、無数の中から選ぶというほどの数にはなっておらず、米国のEMPと同様のやり方はマッチしないだろう。しかしEMの側からすれば、機会がないからEMが立ち上げられない・・・と考えている。これは何年か前にベンチャーキャピタルなどでもよく言われた状況を思い出させる。卵が先か、鶏が先か・・・。

それでも少なくとも昨年の段階で、22もの金融機関が、なんらかのEM市場の活性化につながる対応を発表している。次はEMが手を上げる番かもしれない。すでに現存のEMはこの22団体全てとコンタクトはしているだろうが、これから生まれるEMが、何はともあれコンタクトができる間口があるのだということは、気持ちの上で大きな支えとなるだろう。引き続きより多くのアセットオーナーが、まずは「たたくドア」を用意することができると、業界の共通の未来への道しるべになるのではないだろうか。