投函者(三井千絵)

ロシアのウクライナ侵攻に対し、グローバルな機関投資家などによるガバナンス団体であるICGNは声明文を発表した。そこで戦争が及ぼす人権、社会の持続可能性、エネルギー転換に対する影響について、投資家は今どのように考えているかを取り上げたい。

「戦争と投資の責任(1)」はこちら

 

日本企業の行動

ロシアからの投資撤退やビジネス、製品の提供中止のニュースが聞こえるなか、3月2日には日本企業にもロシア国内で製品提供停止という動きも見られた。しかし今のところロシア国内の物流や金融の混乱が理由だ。アセットオーナーからは3月2日現在GPIFも含めそのようなニュースは聞かれない。

一方でウクライナに対する支援についてはいくつか動きが出ている。楽天グループの三木谷社長兼会長の寄付は話題となった。これは楽天ではなく個人として行われたものが、CEOの行動として海外でも取り上げられている。楽天グループとしても、ウクライナ政府支援の募金を創設し、募金手段として楽天ポイントやクレジットカードでも受け付けることを発表している。ほかには3月3日、パンパシフィックHDが避難民を100世帯受け入れる表明を行った

しかし三木谷氏の10億円(3月2日時点で日本で集められた募金のほぼ半額)の寄付について、ある米国系運用会社のアナリストは「影響力がある人が行動を起こすことは非常に意味がある」と思いながらも、”CEOの行動”として取り上げられることには首をかしげる。これが楽天の企業価値に影響を及ぼすかというと、企業価値についてはその企業の目的との一貫性に着目しているため、疑問だからだ。ロンドンでアジア株をみている投資家は「CEOの寄付はアジアの父性主義的なアプローチと感じる。できれば資産をどのように活用して避難所や必要なサービスへのアクセスを提供できるかについて検討すると尚良いだろう」と話した。

 

指数からの除外

そのような中、制裁の2次的な影響がはじまっている。3月3日、MSCIとFTSEはロシア株を指数から削除することを発表した。MSCIは3月9日、FTSEは3月7日の日付でロシア銘柄を削除する。ある独立系運用会社のクオンツアナリストは「すでに流動性基準で除外対象には入っていた。しかしどういうスケジュールで除外するかはコンサルテーションを行なってからと言われていた。そこで“即時に除外”を希望する意見が多かったのだろう。今は外国人は配当も受け取れない状態。議決権はわからないが、もう株式を保有していること自体が、なかったことになっている」という。株式市場は強固なようで、実は信頼の上に成り立っている脆いシステムともいえる。

これに伴い、GPIFも同日“組み入れ銘柄が変更された場合は、委託運用会社が変更に基づいて資産の売買を行う”と発表した。パッシブファンドを運用する別のファンドマネージャーも「しかし今言われてももう売買もできない状態。ファンドには資産が残り、評価を続けなければならないだろう。ゼロにできればいいのだが・・・」と語る。紛争の可能性が高くなったら指数に入っていても売却できるよう、スクリーニング基準を設定しておくか、指数算定会社があらかじめそう言った除外基準を設定するといったことが必要なのかもしれない。このようなことは2度と起きてほしくないが、顧客資産を守り、逆にまた防止をするためにも、何らかの対応を考えておくべきではないか。

 

監査法人の動き

ロンドンを本部とするグローバル監査法人であるグラントソントンは、3月1日ロシアのメンバーファームで、ガスプロムや中央銀行に対しビジネスを行っているコンサルタント会社のFBKをメンバーから切り離すことを発表した。Financial Timesは3月2日、これを取り上げ、“西側の監査法人やコンサルタントはロシアから引き上げるべきという圧力を受けている”といったタイトルで報じた。ロシアにも当然デロイト、EY、KPMG、PwCといった4大監査法人が、現地法人と提携する形で進出しており、多国籍クライアント、グループ監査の提供などで役割を果たしている。ロシアは現在でも経済制裁が行われている国だが、FTの記事によるとこれまでは撤退ということはなかったそうだ。しかし記事は、今ではロシアでオフィスを持っていたくないという考えが高まっていることを伝えている。スタッフの安全や、会計監査に必須のITシステムや情報を共有できなくなるかもない、といった事情もあるだろうが、“撤退しなければならない”というような精神的プレッシャーが生まれているようだ。監査法人が引き揚げ始めるというのは、本当にロシアが市場から切り離されることになるのだろうか。ロシアとビジネスを続けたり、子会社がある企業にとっては不透明さが増し、ビジネスや投資のリスクを高めるだろう。それは制裁を考えていなかった投資家や企業の経営者へも、より早く投資撤退をしたほうが良いという考えを強めさせるかもしれない。

 

経済制裁は特効性が重要

英国石油大手シェルが撤退を決めたサハリン2に出資をしている三菱商事と三井物産は3月1日の時点では検討中とReutersの取材に答えていた。いずれの道を選んでも影響がある。

ところでこの状況は永遠に続くのだろうか。もともと今回の制裁の強化はロシアにウクライナから兵を引かせるためにはじめた処置だ。ある銀行系資産運用会社のアナリストは「経済制裁は自由主義陣営がとりうる強力な武器であり、投資家はそれを後押しできる」という一方で、「経済制裁には時間がかかる」とも感じている。ウクライナでの被害は日々大きくなり、もっと早く決着しなければ、本来の目的を果たさない可能性がある。

前述のロンドンの投資家は「結局、制裁は誰もが傷つく」と述べた。このような制裁に発展する前に投資家はそれを発見し、本来の経済の力で、発動前にそれを正すことができるべきである。

「全ての戦争には根底に経済的利害の対立がある。ウクライナだってロシアに近い方が豊かになるのであれば、今の状況になっていないだろう。投資家は引き続き経済の力を武器に、罪のない人々への人道的援助を携えて戦争が終わるように臨むべきではないか」と上記の資産運用会社のアナリストは述べた。   (続く)