投函者(三井千絵)

2024AGM01

長期に保有する個人株主の要求は「資産運用立国」の求めるものとなるか?

プライムに残る条件

2024年が始まりはや3ヵ月がたち、今年も株主総会シーズンがやってきた。

ここ数年にはない寒さが長引く3月だったが、後半になると12月末決算企業の株主総会が開催されはじめた。オンライン参加、あるいは株主のみ接続できるサイトでのライブの中継を行う企業は、あまり増えている様子はない。そのような中、3月22日には電通総研が、社名変更後はじめての株主総会でライブ中継を提供した。これに先立ち2月に開催された決算説明会では、売上高・営業利益ともに6期連続過去最高を更新したことが発表された。社名変更と同時に2024年1月、コンサルティング子会社2社を統合し、親会社であった電通グループにあったシンクタンク機能を移管している。この体制変更で社会への提言や発信を行うシンクタンク機能やコンサルティング機能を強化するという。決算説明会でも今後は人的資本の強化を謳っていた。ところが、35分ほど遅れてログインしたところ、株主総会はすでに終了してしまっていた(何かシステムトラブルだったのかもしれないが)。今年の株主総会では、新しい代表取締役社長が選任されたりして、それなりの時間はかけていておかしくないのだが。ネットでは参加者がその様子を共有していたが、質問も3つあったようだ。一つ目は「生成AIへの対応は?」、二つ目は「株価対策は?」という比較的株主総会でよく取り上げられる質問であったようだが、三つ目の質問は「親会社電通60%保有でプライム残留できるのか?」。これに対し会社側の回答は「残れると思っている。親子上場についても問題はない」といった答えだったようだ。それでも61%の親子上場が問題がないと答える根拠は何か?親会社と株主の利益相反をどう解消できるのか、ぜひその説明を得たいと思う。

 

取締役の報酬だけ上げるのか

アサヒグループホールディングは株主総会のライブ中継を提供している。3月26日、株主にわりあてられたIDとPWでログインすると、まず勝木社長による今期の事業報告を聞くことができた。“責任ある飲酒”を掲げ、今後ノンアルや低アルの新市場を拡大する、昨年は欧州でスポーツのイベントをスポンサーすることで販売量を拡大したといった商品展開に続け、再エネやごみの削減、ホップを水不足から守るといったESGの活動についても力説した。そしてDXについてはサステナビリティの取り組み、生産性向上、組織の合理化という3つ異なるフィールドで活用していくといい、役員も半分は社外、また女性5人、外国人も含み自社のグローバルの体制に近い割合にしていく、執行役員CXOを拡充して意思決定を早く、社内では国籍や性別にとらわれず働けるようにすると述べた。そして議案の説明では、今後より良い取締役を採用するために、4号議案で役員報酬総額を15億から30億に、5号議案で監査役の報酬総額を3倍増に拡大することをご承認いただきたい、と述べた。

決議の前の株主質問になり、最初は事前に届いた質問への回答で、たくさんご質問いただきいたと例を述べたが、会社側が選んだ質問はわずか3つ。商品戦略や配当に関することで、用意したプレゼンで回答するため、社内説明の続きのように見えてしまう。果たして何件質問があったのか、どのような質問であったのかを知りたいと思う。

しかし続けて行われる会場の株主質問は全てがライブで共有されるため、株主の生の気持ちが伝わってくる。「役員報酬を引き上げるなら従業員の賃上げはしたのか」と少し憤ったような声による質問が行れたが、社長は「5%~6%上げました」と即答し次へ進んだ。続けて数件、東南アジア市場はどうかとか、プレミアムビールみたいなものを出さないのかとか、ダイバーシティに関する取り組みについて質問が続いたが、また役員報酬についての質問が出た。「株価が6000円時代に比べて、一度4000円台までおちて、ここのところ少し上がっているとはいえ、今役員報酬を上げるのか?この追加する15億を配当すれば(5億株)、68円になって株価は6000円台に戻るかもしれない。なぜそうしない?」。これに対して社長は、今は過去のM&Aの影響を受けた財務の健全化の途上であり、それでも数年後に向けて配当性向40%まで引き上げようとしている、それに2007年からずっと増配しているのをわかってほしいと、とかわし、“なぜ役員報酬だけ先に上げるのか?”という質問には答えなかった。

しかし株主側もここが最も“ものを言いたい”箇所であるのか、次の質問者も「ライバルのキリンなど食品業界はみな40 %だ。やっと追いつく程度。それなら50%を目指したらどうか」と問うたが、「叱咤激励のご意見とうけとる」とまたかわされた。従業員は5~6%の賃上げで、株主は業界標準より低い配当性向であるのに、役員報酬だけ倍増なのはなぜかという質問に経営者は答えられるのだろうか。人的資本が謳われるなかでの企業価値の向上や、受託者責任からすれば機関投資家もして然るべき質問ではあるが、同じような回答になるのだろうか。

 

CEO賛成比率は40%アップ

28日に株主総会を開催したキヤノンは、今年もオンライン参加どころか、ライブの共有もない。そのため様子を見ることができなかったが、翌日の報道をみると、昨年50.59%だった御手洗会長兼社長の賛成比率は90.86%であった。今年は若い新任取締役候補があり、その中の1人は女性であった。取締役会の平均年齢は71歳(昨年は78歳)となったが、社長と副社長の平均年齢は82歳。高齢を心配される米国の大統領と同じ年だ。それでも今年これだけ支持されたのは「サクセッションも資本政策も大きく前進したからではないか」とある米国系資産運用会社のESGアナリストは見ている。

とはいえ個人株主は、そう温かい目でみているばかりではないようだ。会場の様子は開催直後から参加した個人株主がSNSで共有をしていた。まずは事業戦略で、半導体製造に用いられるナノインプリンターについて質問をした株主があったようだ。2025年稼働をめざし工場建設中ということで、どれくらい引き合いがきているのか、といった質問に会社は明確に回答をしなかったようだが、これで株価が向上するのではとSNSで意見交換がされていた。他には、同じ日に株主総会が開催された小林製薬のニュースを引き合いに、問題が起きた時の対処についての質問が出され、御手洗社長からは、何かあればすぐ調査する体制があるといった回答があったようだ。そしてやはり、御手洗社長が今年89歳であることから健康上の心配する意見が出たようで、これに類似する書き込みは、他のSNSでも頻繁に見られた。御手洗社長の取締役専任議案は、支持率が増えたといっても10%はまだ反対している。機関投資家はサクセッション・プランで今は評価をしたようだが、個人株主は厳しい目を向けているようだ。

 

個人投資家の質問も年々、その年の企業や市場全体の課題に沿ったものになっていると感じる。プライムに残る条件、人的資本、配当政策、サクセッション、そして企業価値向上にかかわる事業戦略など、自らの蓄えであるため、ある意味機関投資家より切実な意見を持っていることもある。今金融庁では「資産運用立国」を謳い、日本の資産運用業の活性化に独立系運用会社の必要性を説いている。運用の競争力向上が理由の一つだが、投資先企業に企業価値向上のため独立性の高い(忖度のない)要求を行うことも期待の一つだ。投資期間の長い個人投資家も(議決権は少ないが)その機能をもつとも言える。

より多くの株主が参加できるよう、当局も企業に株主総会のオンライン化をさらに進めるよう求めてほしいと思う。そうすればこれらの株主の声もより大きく経営者に届きやすくなるだろう。それは現在国全体が進めている政策にもかない、長期の企業価値向上に寄与するのではないだろうか。