投函者(三井千絵

10月15日、台北市に位置し、台湾国営企業である台湾中油(CPC)が保有するカンファレンスホールで、第12回Taipei Corporate Governance Forumが開催された。主催は台湾金融庁にあたるFinancial Supervisory Commissionで2年に一度開催されており、今年はその12回目にあたる。今年、台湾ではコーポレートガバナンス改革の新3カ年ロードマップがスタートした。この新行動計画が目指すものはどのようなものなのか、この取り組みによって身近な“ライバル”台湾企業が海外の投資家からどのように評価される可能性があるか、また日本が参考とするべき点がないか見てみたい。

 

台湾は会社法や会計制度が日本と似ていると言われている。また上場企業に製造業が多いところも、他国と比べ日本の市場と類似している。そのため2013年台湾がIFRSを全上場企業に強制適用した時、当初IFRSを適用していたEUなどでは金融業が多かったことから、”製造業がIFRSを適用した事例”が見られるとして注目された。台湾証券取引所では従来からのアナリストが見やすいよう、営業利益をいれた事例を作成するといった工夫をしていた。また同じ頃、台湾証券取引所は、企業にGRIに準拠したCSR報告書を作成することも奨励していた。2013年当時としては、他国に比べレポートを作成する企業数が多いとGRI関係者が喜んでいた。そして2016年にはスチュワードシップ・プリンシプルが導入され、機関投資家にサインを求めた。さらにその翌年には議決権行使のe-Votingが導入された。

 

これらに続き、今年台湾が新たに目指すロードマップは5つの柱からなっている。その5つとは、①CSRの更なる強化、②ボードの役割の強化、③機関投資家の活性化、④企業開示の強化、⑤関連法令の強化で構成されている。特に注目すべきこととしては次の3点があげられる。まず監査委員会の設置の義務付け、規模の大きい企業への英文開示の義務付け、そしてカンパニー・セクレタリの制度の導入だ。

 

5つの柱について一つずつ、そのポイントをあげてみたい。

①については台湾証券取引所で新たにCSR関連の指数を導入する。その背景は、もっと多くの台湾企業にMSCIやFTSEのESG指数のレーティング対象となり、スコアを伸ばしてもらいたいという想いがあるようだ。

②のボードの役割強化としては前述のように2020年までに、全企業に監査役ではなく監査委員会を設置するよう義務付けることを掲げている。そして必要な専門家を雇用することを呼びかけている。最近、ある会計不正が起きた会社で、独立社外取締役が訴訟されるという事件があったことも影響しているようで、企業の内部監査に関する権限や機能を強化したい様だ。

③では機関投資家のスチュワードシップ活動を強化すということで、e-Voting systemの導入等更なる議決権行使の透明化によって役員選任議案への積極関与を促したいようだ。企業側には指名のシステムや報酬制度の改善を求める。

④については、上位約300社(対象となる条件は外国人投資家の比率や資本金の規模)に英文開示を義務付け、日本のEDINET/TDnetに類する台湾証券取引所の開示システムをリニューアルする。

最後の⑤は関連法案の整備だ。会社法、証券取引法も改訂する。また上場ルールとして、企業にカンパニー・セクレタリーの設置を義務付ける方向になっている。

 

カンパニー・セクレタリーとは、英国、英連邦及び英国会社法を元とした国にある、企業の中にガバナンスの専門家であることを証する有資格者を置く制度である。

英国では、企業は“カンパニー・セクレタリー”という資格保有者を置かなければならない。会計士のように協会に属し、一定の教育を受け、試験に合格するとこの資格を得ることができる。また毎年一定の継続教育を受ける必要もある。カンパニー・セクレタリーの主な仕事はボード会議に出席し、年次報告書を作成し株主総会を運営することである。彼らは専門職であることで、そのプロフェッショナリズムに基づいて職務に責任をもち、またカンパニー・セクレタリーの協会は、英国ではFRC(Financial Reporting Council 英国の企業開示を担うレギュレーター) のよきパートナーとなる。FRCはコードを改訂する時には協会にも十分ヒアリングし、改訂後は協会が全国のカンパニー・セクレタリーに教育を行う。コーポレートガバナンス・コードの全国への速やかな普及に、なくてはならない存在だ。

英国の場合は、取締役、取締役会議長、CEO等と並んで、カンパニー・セクレタリーは会社の重要な一要素となっている。大きな会社の場合は数十人からなるチームで構成される。専門職であるため、制度や開示の遵守が大変、と嘆くより、大変であればあるほど自分たちの仕事の価値が上がるというメカニズムが働くと見ることもできる。もちろん、台湾の場合、まだドラフト段階で、どこまで英国のような制度になるかはわからない。しかしこの制度の導入は、今回の改革の実効性と言う点で大きな影響を与えるのではないだろうか。

そのほか、ベストプラクティスとして、年次報告書を期末から60日以内で発表することを奨励している。(台湾ではいま監査済み年次報告書は株主総会の前に提出されているが、法律で定められた総会7日前ぎりぎりというケースもあり、早めることを奨励する)これは海外の投資家にも議決権行使まで十分に年次報告書を読む時間を与えるためだ。

 

上記のような数々の改定が、実際どの程度効力を持つかはこれからの台湾企業の取り組み方次第である。しかしこれらの制度面の改革やこういったロードマップを策定しただけでも驚かされる点がいくつもある。台湾は日本に地理的にも近く、海外の投資家から見れば日本企業とは何かと比較しやすくないだろうか。特に英文開示や監査委員会の設置の義務付けは、どのように実行されるだろうか。台湾でできるのであれば、日本でもできるのではないか・・・・といったことが思い浮かぶ。

台湾は日本より市場規模が小さく、海外投資家へのアピールの必要性が日本より、切実なのかもしれない。そのような台湾市場に、引き続き注目したい。