投函者(三井千絵)

スクリーンショット 2023-07-01 11.56.41

J-Powerの株主総会招集通知

2度目の気候変動株主提案

6月28日、電源開発株式会社(J-Power)の第71回株主総会が行われた。これに先立ちJ-Powerは、昨年に続き2回目の海外機関投資家からの気候変動関連株主提案を受けていた。提案したのは今年はアムンディアセットマネジメントと、HSBCアセットマネジメント、そしてオーストラリアのNGOであるACCR(オーストラリア社会的責任センター)。昨年は提案社として参画していたマン・グループも支持を表明した。

今年の提案内容は次の2点だ。

第3号議案として、定款に規定の追加提案

・長期的な企業価値を高めるため、パリ協定の目標に沿った温暖化ガス排出量削減にかかる科学的根拠に基づく短期的及び中期的目標を達成するための事業計画を策定し、公表する

・各事業年度ことに、目標の進捗状況を開示する

第4号議案として、定款に規定の追加提案

・年次報告書において、報酬方針が科学的根拠に基づく短期的及び中期的な温暖化ガス排出量削減目標の達成をどのように促進するものであるかを開示する

いずれの議案にも、その開示に極端なコストをかけないよう、“合理的な費用にて報告する”という文言と、“機密情報は省略可能”と追記されている。

いずれも会社はこの提案に反対をしている。理由はいずれも、株主提案が求めることにはすでに取り組んでおり、またこのような内容を定款に書くのはふさわしくないというものであった。

 

昨年よりも厳しい提案

昨年の株主提案は3つの議案に分かれていたが、今年は2つにまとめられたとはいえ、内容は一見ほぼ同じだ。しかし2度目の提案を行ったということ自体に、提案者たちの憤りが伝わってくる。提案者のうちの一社は「昨年は会社側の反対理由と共に “今後も開示の充実に努める”という一文があったが、実際この1年何も良くなっていない」と今回の提案の理由を述べた。

「昨年は26%の賛成を得た議案もあった。英国では直近のコーポレートガバナンスコードで、企業は20%株主が反対票を投じたら企業はそれに対しどのような措置を講じるか、背後にある理由は何かを他の株主を含め6ヶ月以内に説明しなければならないとされている。日本のコーポレートガバナンスコードでも、相当数反対票が投じられた場合は、反対の理由や原因の分析を行い、株主との対話等検討を行うべきとされている。しかし、石炭火力をいつまでに撤廃するのか明確なスケジュールを示さず、アンモニア混焼をするといってもその入手ルートについても、設備投資のコストについても説明できていない」

確かに今回の株主総会議案でも、削減量の目標値を引き上げたり、再エネのプロジェクトに取り組んだり、石炭ガス化、Co2回収技術の実験を行ったり、アンモニア混焼の実施体制の確立を目指している、という説明を行なっている。しかし結局のところいつ石炭火力をやめられるのかという点が不明瞭で「スピード感がない」と感じている。そして今年は株主提案だけでなく、”Blue mission 2050”という脱炭素計画の責任者であった菅野新社長への選任議案に対する反対も宣言した。

 

変わる投票行動

これに対し国内の投資家の中には「とはいっても、日本政府がいまだ石炭火力を含む全ての発電システムを否定せず、“何かイノベーションがあるかもしれない”と言っていることからすると、J-Powerだけで具体的なスケジュールを出せるものではないのではないか」という意見もあった。

今年の賛成票は21%と昨年より5%ほど少なかった。仮に昨年と株主構成が同じであった場合、どういった株主がどのような理由で投票行動を変えたのだろうか。

この春、米国では約20の州の司法長官から、ネットゼロを求めるアセットオーナーらにレターが送られた。レターはこれらの投資家に、企業に対し行なったエンゲージメント等の記録を提出することを求めたものだ。そして投資家同士で気候変動の影響を軽減することを特定企業に求めることが独占禁止法に違反する可能性がある、と述べている。

資産運用会社の投票は、基本的には各投資家が各社の議決権行使方針に基づいて行なわれている。しかし企業価値の毀損リスクの評価などを、アライアンスの活動を通して学んでいる。そのため“投資家同士がヨコにトラストしている”とみられるリスクをちらつかされた・・・ということだ。米国南部に本拠地をもつ、ある資産運用会社のESG担当者は「レターがきてから米国以外の企業に対しても、記録は十分かなど常に問われ大きなプレッシャーを抱えるようになった」という。そういった圧力が、気候変動株主提案に対する投票行動に変化を与えたかどうかは、今年の記録が明らかになってからの分析を待つ必要があるだろう。

 

気候変動対策への動き

とはいえ、今の米国の気候変動対策に対するドライバーは、日本国内よりはるかに大きく働いている。昨夏バイデン大統領が署名したインフレ抑制法(IRA)によって、日本企業の多くが米国で脱炭素関連の事業展開を計画している。トヨタはすでに米国でEV販売にアクセルを踏み、6月2日には2025年に米国で稼働予定のEV用電池工場に21億ドルを追加投資すると発表、バッテリーEVに消極的とされてきたそのイメージを一新した。パナソニックも5月11日、テスラと共同で取り組むネバダ州の工場がIRAによる補助の対象となり、エナジーセグメントに800億円の調整後営業利益が見込まれると発表した。今は気候変動対応をスピード感を持って行うことが、事業戦略上必須となってきている。J-Powerの株主総会では、株主提案に賛成を示したうえで会社の脱炭素計画について質問をする一般株主もいた。他にも地熱発電や水素、蓄電池に関する質問などもあり、脱炭素への取り組みに関する株主の関心の高さがうかがえた。

 

気候変動株主提案はこれまで、定款を変更し、開示を約束してもらう、というものが主流であった。しかし気候変動の影響が年々大きくなるなかで、“対応の遅れが事業戦略上大きなデメリットとなる”ということであれば、それは役員選任議案で意思表示をすることが、よりぴったりくるのかもしれない。これまで賛成できなかった投資家の中には、“定款はそのようなことを書く場所ではない”と考えているケースもあった。今後役員選任議案で株主提案が行われたら、これらの株主の投票行動はどのように変わるだろうか。

J-Powerの、今年の渡部新会長の賛成票は93%、菅野新社長への賛成票は95%だった。他の取締役が98.3〜4%だったことを鑑みると、トップへの反対票で意思表示をした投資家もいたのかもしれない。

これからの気候変動株主提案はどのようになっていくのか、企業も投資家も、どのように考え、どのような行動をとるべきか、継続して考えていく必要があるだろう。

 

 

※ J-Powerに対する2022年の株主提案は、ESG投資関連ニュースメディアのEnvironmental-Finance.comによるSustainable Investment Awards 2023を受賞しました。

ESG engagement initiative of the year, Asia: Investor coalition at J-Power