投函者(三井千絵)

PRIUS

株主総会のお土産 PRIUSミニカー

豊田章男氏の14年間の総括

6月14日、トヨタ自動車株式会社(以下トヨタ)の第119回株主総会が行われた。議長は会長の豊田章男氏だ。出席した株主は第一会場(ホール)だけでは収まらず、同じ建物の中に別途用意された会議室や、他の建物にスクリーンを設置して本会議場の様子を中継した。筆者は10時からの株主総会に対し9時15分ぐらいには会場についたが、もう第2会場に回された。トヨタ本社の前では、ガソリン車に対する疑問をなげかけた横断幕を広げた環境NGOの姿もみられた。株主総会が始まり、最初にビデオによる事業報告が行われたが、2時間に及ぶ株主総会のほとんどの時間が株主質問に充てられた。何人もの株主が社長を引退した章男氏に発言を求めた。中には6月1日に定年したばかりという元社員が、章男氏が社長になって如何にトヨタが変わったかを語った。章男氏は、リーマンショックの直後に会社を引き継ぎ、当時官僚的で縦割りだったトヨタの体質を変え、巨大化した取締役会を大胆にスリム化し、顧問・相談役を廃止し「現場に主権を取り戻してきた」ことについて語った。旧体制を変えようとする者の常として“常に孤独だった”と振り返り、「それでも自分には現場の仲間がいた。」そして最後は涙をにじませながら、議決権行使書に手書きで書かれた章男氏にエールを送るメッセージを引用した。新しいCEOの佐藤氏も、「我々は車屋だ」といい、車を作ることが本当に好きなのだと繰り返し語った。しかし車は変わっていく、これまでのように道路を走るだけではなく、町やインフラとつながっていく、それがトヨタが今取り組む「モビリティ」だ、と述べた。

 

気候変動株主提案

今年トヨタは、北欧の機関投資家3社が共同で提案した株主提案を受け、これが第4号議案となった。提案した機関投資家の1社であるオランダの公的年金基金の運用子会社であるAPGアセットマネジメントでトヨタを担当するサラ・リー氏は株主総会に実際出席する方法を探ったがかなわなかったそうだ。機関投資家は名義株主ではないため、通常日本の株主総会の制度では出席できず、代わりに弁護士が参加して、提案の補足説明を代読した。3社の提案は、トヨタに気候変動関連の渉外活動について、それが気候変動に関わるリスクを減少させることにどのように貢献しているか、合理的な費用内で開示することを求めている。またその開示にはパリ協定の目標及び、2050年カーボンニュートラル実現というトヨタの目標と整合しているかどうかも記載して欲しいというものだ。ただ日本の株主総会のシステム上、これを行うことを定款に記載することを求める提案になっている。

弁護士は3つの機関投資家は合計して7400億ドルの運用資産を持ち、Climate Action 100+に参加している。気候変動問題に関する世界の企業の渉外活動を評価しているシンクタンク「インフルエンスマップ」は、トヨタの開示に対し低い評価をしている。そこで今回株主提案を行った、と述べた。そして開示を改善し、パリ協定の目標を達成するための更なるリーダーシップをとって欲しい、と述べた。

これに対し取締役会は「反対」をし、その理由としては、求めるような開示は行っているし、今後も行うことを約束する、日本の会社法の定款は一度記載すると再度更新しづらく、機動性を失うので、個別の業務について書き込むことはふさわしくない、と述べた。

 

株主提案に対する株主質問 

株主質問では前述のように、章男会長に何らかの発言を求めるものから、ウーブンシティの取り組みや自動運転に関することなど様々な今後のビジネスビジョンに関するものがあったが、その中の一人がこの株主提案について聞いた。「彼らはどれくらいここに足を運んでいますか?来年もまた提案してくるのではないですか?それに対しどう対処するつもりですか?」

これに対し、取締役会の回答は「彼らはここまで来ていないが、私たちがデンマークの先方を訪ねた」と3社の中の1社であるデンマークのアカデミカペンションとの対話を例にあげた。そして「まず彼らには感謝をしている。毎年開示について意見をいただいており、改善につながっている」と話し始めた。「ただお互いの想いが異なることがある、エンジンを使い続けることはカーボンニュートラルにつながるのですか、というご意見でした」と言い、トヨタは、カーボンニュートラルはエネルギーがどう変わっていくかと位置付けている、自分たちはグローバルにビジネスを行っており、地域によっては様々な事情がある。デンマークは再エネが豊富に得られるが、充電設備が整っていない国もある、いろいろなやり方を取り組まなければならない、と述べた。そして「カーボンニュートラルな燃料を使い、新車以外も対応するという道もある。敵は炭素であり、自動車(エンジンと言いたかったのかもしれない)ではない」と強調した。

この話を聞いて、質問した株主は満足をしたようだったが、この回答は直接的に株主提案とかみ合っていない。アカデミカが対話時に何を言ったかはさておき、株主提案は“渉外活動の開示を改善して欲しい”、であり“エンジンを辞めて欲しい”ではない。少なくとも3社の中のAPGのサラ・リー氏は、トヨタが評価されていない点を問題視し、開示を改善して欲しい、と求めている。トヨタ側も「EUの投資家はエンジンを批判する」と思いすぎているのかもしれない。

 

トヨタはテスラに勝てるのか?

別の株主から、バッテリーEVに力をいれるというニュースが聞かれるが、トヨタはいよいよテスラと並ぶのか、という質問があった。これに対し担当者は「私はバッテリーEVが大好きです」と説明の中で2回強調し会場を沸かせた。章男氏は「大好きと言っているからテスタに勝てるかわからないが、いい車をつくるだろう」と補足した。

しかし海外の投資家やメディアではいまだにトヨタにはEVに後ろ向きというイメージを持っている。こういうやりとりが、ライブ配信も行わない株主総会で行われても、グローバルに届かない。APGらが言っているのは「だから開示に力を入れて欲しい」、「もっと理解をされて欲しい」ということだ。

他の質問への回答の中で章男会長は「マスコミや政治で作られるのが世論ではない。車を愛してくれる人が本当の世論だ」と述べた。14年前に章夫氏が社長になってから、確かにトヨタはそう考える社風が強まったようだ。製造業としては正しいのかもしれない。しかし、トヨタに関わる人は国内だけではない。いったい世界中で何億人がトヨタ車に乗っているのか、6月14日現在37兆円の時価総額を抱えるトヨタはいったいどれだけの人が関与する資産運用に組み入れられているのか。その見えない人々にも、もっと理解されるようにして欲しいというのであれば、定款に記載することの是非は別にしても、この株主提案の内容はなんらトヨタにとって困ることではないはずだ。

株主総会終了後、会場では「もう少しお付き合いください」といって、この総会で引退する内山田氏が登壇した。章男会長は内山田氏を「Mrプリウス」と呼んだ。彼はプリウスを世の中に出した人だ。今日の株主総会のお土産はプリウスのミニカーだった。トヨタはハイブリッド車を初めてこの世に出すというテクノロジーの革新を行った会社だ。そんな会社にまたリーダーシップをとって欲しい、そう考えるグローバルの投資家とは、今後もしっかり対話を行い、理解しあって欲しいと思う。