投函者(三井千絵)

 

英国FRCは、2021年9月6日、その前年に改定されたスチュワードシップコードについて”Successful signatoriesのリスト“を発表した。(前編はこちら

 

変更点はStatement よりEvidence

これに先立つ1年前、FRCは早期適用者の提出したレポートを評価した“THE UK STEWARDSHIP CODE REVIEW OF EARLY REPORTING“を公表していた。

FRCは今回の改訂前も、新たにスチュワードシップコードの受け入れ署名を希望する機関が現れると、ポリシーステートメントなどをチェックしていた。コードを改訂すれば署名機関は少なくとも新しいポリシーを策定することになるだろうし、FRCもそれらを再度確認する必要があるということで、一度既存の署名はリセットされた。日本では定期的にコード改訂が行われており、改訂にあわせてポリシーを変更した場合は金融庁に通知すると理解されているものの、その時に“落ちることがある”という認識はない。

英国では今回、”応募”の際ポリシーだけではなく、スチュワードシップ活動のエビデンスを示す必要があった。FRCは“早期適用”を受け入れ、早期適用者のレポートの評価を発表することによって、署名を希望する機関が新しいスチュワードシップコードの理解を深め、署名に向けて準備する機会を提供したわけだ。12の原則ごとに、実際の早期適用者のレポートを評価する形で解説をしている。たとえば原則1「Purpose、Strategy、Culture」では、Border to Coast Pensions Partnershipがその起源、Purpose(ビジョン)、3年間の責任投資戦略を説明しているページ、シュローダーのESG要因へのエクスポージャーの分析がどのように長期のサステナブルリターンを強化するかについて自社のBeliefを概説しているページを紹介している。63ページにわたるレポートは非常に細かく記載しているが、FRCが今回着目したのはポリシーステートメントより、実際に実行しているエビデンスだった。そこでステートメントだけではなく、実際のアクティビティを記載したレポートを提出することを求めた。アクティビティレポートは5年前にはじまったTieringでもみていたが、それでもポリシーを重点的に見ていたという。

そして今年の3月の初めから、正式に応募してきたApplicantsの提出書類を評価したわけだが、「今回はTieringまではしていない。まずはどのようなレポートが効率的が示す必要があると考えている。将来は検討する」のだそうだ。

 

目的は運用者の考えを理解させること

ではFRCがチェックした”エビデンス“とは何か? これは決して「では議決権行使の全個別結果を出せ」というようなシンプルなことではない。

9月16日、筆者はFRCにオンライン・インタビューを行った。FRCのスチュワードシップコード担当者は「たとえば議決権行使でいえば、重要なのは行使結果そのものではなく、アウトカムだ」と強調した。UKのスチュワードシップコードは、たとえばアセットマネージャーであれば、アセットオーナーの理解を助けることを求めている。だから議決権行使でいえば、そのポリシーを理解するために必要なエビデンスだ。キーイシューをどのように捉えていて、どうしてそういう議決権行使をしたのか、ポリシーはどうインプリメントされているのか、それによって何が得られたのか。自ずと全件の開示というよりケースになる。原則主義なので、やり方はさまざまでいい。それがアウトカムを生むと考えれば、「議決権行使後24時間以内に結果を発表する」でもいい。ただFRCが求めるエビデンスとはむしろプロセスだ。

「そうすると、たとえばアセットマネージャーが優れたコンサルタントに頼り、美しいストーリーを描いてもらうようになるという懸念はないか?」と聞くと苦笑しながら「仮にそうだとしても、コンサルタントに頼ること自体は悪くない。相手にわかる言葉を使うとか、“こういう説明だと理解されていない”と教えてもらうことはいいことだと思う。しかしコンサルタントができるのは情報へのアクセサビリティの向上であってエビデンスを作ることではない」と述べた。

そして「実際、写真をいれたゴージャスなレポートも見られる。一方機能的なものも。でもFRCが見るのはエビデンスがあるかだ。FRCのレビューは独立アドバイザーにもチェックしてもらっている」と付け加えた。

 

英国流? 根底に原則主義

昨今投資家は非常に忙しくなっている。投資家のレポート/開示といえば、今年の3月からスタートしているEUのSFDRが思い浮かぶ人は少なくないだろう。SFDRではポートフォリオの企業のタクソノミの適合性や、環境・社会に対する悪影響を開示することで、その運用のサステナビリティへの貢献を示す。タクソノミや特定のインディケーターを用いることでグリーンウオッシュを防ぐ。

FRCは「投資家のプライオリティは、FRCではなく投資家が決めるべきことだ」とキッパリと言い、コードは、フレキシビリティを認めている。しかし署名をしたら投資家は、ベネフィッシャリーや自らの組織の長期のサステナビリティにとって重要なことは何かを特定することで、投資の信念やスタイルを明確にする責任がある、と述べた。

UKでは開示でもコードでもその根底に原則主義的な考えがある。今回の改訂ではESGという言葉が初めて登場しているが、UKスチュワードシップコードはGについて長い歴史がある。これまで投資先企業のガバナンスを改善するため、役員報酬や、ダイバーシティなどが議論されてきた。しかし昨今EやSのイシューは急速に企業に財務的なインパクトを与えるようになった。そもそもスチュワードシップコードの責任とは、ベネフィッシャリーに影響のあることを幅広く見ていくことであり、従って今回の改訂ではこれを明確に記載したそうだ。

国企業には多くの海外投資家が投資をしており、その中にはアジアの投資家もいる。FRCは、海外からの英国のスチュワードシップコードへの署名は歓迎しているそうだ。次の応募は10月から翌年の4月まで。次のリスト更新に注目したい。