投函者(三井千絵)

 

 

英国FRCは、2021年9月6日、スチュワードシップコードについて”Successful signatoriesのリスト“を発表した。

スチュワードシップコードについて長い歴史を持つFRCは、2019年7年ぶりに改訂のコンサルテーションを行い、改訂版はThe UK Stewardship Code 2020として2019年12月に発表された。その後FRCは「改定版コードへの受け入れの署名は、新たに行うこと」としてそれまでの署名機関リストをリセットした。

2021年3月、FRCは署名希望機関に対し”申し込み受付”を開始し、半年後の9月6日署名機関リストを発表した。申し込み時に、申請機関は自らのスチュワードシップ活動を記載したレポートを、エビデンスとして提出しなければならなかった。スチュワードシップコード受け入れ方針ではなく、実際の活動記録が重視されたのだ。FRCはこれを精査し、実際にコードが求める活動をしていない…と認識した機関は署名者リストに入れなかった。つまりのList of Successful signatories とは、FRCの検査に通った“合格者リスト”となった。

 

グローバルな大手運用会社も“落選”

FRCのHPによると、今回はアセットオーナー、アセットマネージャー、サービスプロバイダ―の合計189機関から申請があったそうだ。しかし発表されたリストには125機関しか掲載されていなかった。そのほかは、誰が申請しなかったのか、誰がしたけど合格できなかったのかはわからない。直前までは300機関ほどが署名していた。Financial Timesによると以前は署名していて、新しいリストに名前がない運用会社として、ゴールドマンサックス、クレディスイス、ノーザントラスト、BNPパリバの運用子会社、シュローダー、アリアンツGI、ステートストリートGA、JPモルガンAMなどをあげたが、いくつかの運用会社はFTの取材に「今回は申請しなかった」「様子をみた」「次の申請に向けて準備中」と答えているところもみられた。

FRCはそのHPで、今回合格にできなかった機関には「ポリシーステートメントの記載が過度で、実際のアプローチを十分に証明していないケース」があった、と挙げている。またレビューやサービスプロバイダ―のモニタリングについて説明が弱かったところも合格にしなかったようだ。説明不足だけで不合格になったのであれば、開示を見直せばよい。不合格の機関も次の募集で再チャレンジすることができる。次は10月31日から半年間申請が可能だ。FRCは自社のスチュワードシップレポートを改善し再度応募することを奨励している。

FRCのCEO、ジョン・トンプソン卿は今回の対応の理由として、「キングマンレビューの推奨事項に基づき、また(予定されている)新しい規制当局になっていくために、今回このような取り組みを行った」と述べている。

 

5年前の取り組み、Tiering

FRCがスチュワードシップコード署名機関を評価したのは今回が初めてではない。2016年にはTieringという、署名機関の取り組みをHP等で提供されている開示書類から探し、3つのTierに分類するという試みを行った。FRCはこの時は、既に署名を行っている300機関をすべて調べ、各社にレターを送った。そこには開示書類からコードが求めている要件を満たした活動をしているかどうか、どのようにFRCが理解したかが記載され、各社に連絡を求めた。つまり各社発表前に、FRCに説明の機会が与えられただけでなく、この時点の評価は公開されなかった。数か月後、各社開示を改善するチャンスを経て、再度FRCが確認をし修正されたリストが発表された。この発表段階で署名機関は250ほどに減っており、ここでTier3に分類されたところは一定の期間ののち、スチュワードシップコードへの順守を向上させられない、ということでリストから取り下げられた。

 

地元英国の運用会社の声

英国の運用会社のA氏は、自社がリストに残ったことで声が多少弾んでいた。A氏は昨年からFRCと何度もやりとりをし、スチュワードシップレポートには自社が新しいスチュワードシップレポートを理解し、記載すべき内容を書いたと説明してくれた。まずはスチュワードシップポリシーだが、それだけではなく、どのようなテーマでどれくらいエンゲージメントを行ったか、どのような議決権行使を行ってきたかについてすべてのアセットクラスについて、また英国以外の地域での活動についても記載した。ESG投資に必要なプロバイダーやツールなどについても記載し、どのようにConflicts of interestを避けているかを記載した。それらもポリシーだけでなく、どのように対応したか具体的に記載した。またエンティティレベルとしても自社のCOVID-19と気候変動への対応について記載した。そしてマイニングインダストリーにおいて、他の投資家とイニティアティブに加盟しコラボレーションをしたケースについて説明している。

A氏はFRCの対応に対しとてもポジティブだが、市場では様々な意見があると認識している。FRCとの対話と通じスチュワードシップコードの意図を理解していると考えているためかA氏はFRCの評価に不満はないようだが、不満がある運用会社もある。

英国のアセットオーナーでガバナンスについて担当しているB氏は、今後を少し心配している。FRCのレビューには色々な疑問もある。たとえば同じ企業に対しパッシブのマネージャーとアクティブのマネージャーはおそらく別のアプローチをする。エンゲージメントひとつとっても、そのゴールも違うだろう。特にアクティブの運用者の場合は、様々な状況や判断によってエンゲージメントをするより売却をしようと考えるかもしれない。それをFRCは“エンゲージメントをしていない”と評価するのか、そういった細かいところが気になってしまうそうだ。そしてだんだん運用者側がFRCの評価を意識し、ボイラープレートな対応をしてしまうのではないか・・・という点を懸念している。

 

<後編に続く>